2021年7月、フィジーで接種したコロナワクチンが体に合わず、それがきっかけで命の危機に直面しました。具体的には、心臓が締め付けられるような痛みと息苦しさに襲われました。何気なく送っていた日常が一変し、「明日も生きている」ということが当たり前ではないと初めて実感しました。さらに追い打ちをかけるように、フィジーの医療水準は日本ほど整っておらず、十分な治療を受けるのが難しい状況でした。このような状態で現地に留まるのは命の危険があると判断し、日本での医療を受けたいと思いました。しかし、当時はコロナ禍の影響でフィジーが鎖国状態となっており、自由に出国することは不可能でした。閉ざされた状況の中での不安と恐怖は想像を超えるものでした。そんな中、幸運にも、東京オリンピックの開催に伴い、フィジーのオリンピアンたちを日本に送迎する特別なフライトが用意されました。そのフライトに便乗する形で、奇跡的に日本への帰国が叶いました。しかし、その頃には私の体調はさらに悪化しており、立ち上がるだけでも困難な状態で、命をつなぐことだけを考えていました。
私は二児の父親であり、子どもたちはまだ幼かったので、絶対に回復しなければならないと自分に言い聞かせ、命がけで戦う日々が続きました。この時期が私の人生で最も辛い時期でした。
17年にわたるフィジー生活の中で「幸せとは何か?」を探求していたこと、そして終活セミナーを主催して「死」についてある程度頭の中で整理ができていたことが、乗り越えられた大きな要因でした。
昔から本を選ぶときに、『20代でやっておくべき〇〇』といった先回りの情報が書かれている本を好んで読んでいました。その影響もあって、30代の頃、一時帰国した際に、たまたま興味を持って参加した終活セミナーがきっかけで、余生を意識した生活を送るようになりました。フィジーに戻ってからは遺書やエンディングノートを書くといった終活を実際に行っていました。終活には多くのメリットがあります。例えば、自分のやりたいことを明確にし、その都度行動に移せることや、日常的に後悔を減らしながら生きることができる点です。そういった日々の積み重ねがあったおかげで、「やりたいことはやってきた」という思いがあり、何も準備をしていなかった場合よりも精神的に大きく落ち込まずに、この困難な時期を乗り越えることができたのだと思います。
「いつそのときが来ても後悔しないように、普段から『これをやらなかったら後悔しそうなことリスト』を消化していく」。これが私が人生で学んだ大切な考え方です。
実は、学生時代の私は夢や目標を持ったことがありませんでした。小学校、中学校、高校、そして大学時代も、やりたいことが見つからないまま日々を過ごしていました。社会人になってからも同じで、特にやりたいことがあるわけではなく、毎日を淡々と過ごしていました。そんな中、社会人3年目のある日、会社の同期40人と「宝くじで1億円が当たったら何をしたいか?」というテーマで雑談をしていました。多くの同期が「世界一周には絶対に行きたい!」と盛り上がる中で、私自身は「世界一周か……もしかしたら行ってみたいかも」という程度の感覚でした。しかし、それでも「やりたいことが何もない」と感じていた私にとって、「少しでもやってみたいかも」と思えることは、とても貴重な気づきでした。その小さな芽を大切にしようと思い、私は行動を起こす決心をしました。新卒で入った会社を3年目で辞め、世界一周の旅に出ることにしました。旅の目的は「移住できる国を探すこと」。2年間かけて100カ国を巡り、住みやすい国ランキングで上位だったフィジーに29歳のとき移住を決めました。移住後の生活はシンプルで豊かで、私にとって理想の環境でした。こういった経験もあり、「行動しないこと」のほうがリスクであり、不安を生むということを実感しました。そのため、私はやりたいことを先延ばしにせず、早めに取り組むようにしています。今では、父親として子どもたちとの時間を大切にすることを最優先にしています。過去に自分の「やりたいこと」を納得いくまで実行してきたからこそ、今は家族に全力を注げるのだと思っています。
これまでにさまざまなオンラインコミュニティを運営してきましたが、その経験を活かし、新たに「余命60日」という仮想のタイムリミットを設定して、自分自身を見つめ直すプログラム「余命の学校」を始める予定です。このプログラムでは、具体的な期限を仮定することで、人生の終わりを意識し、日々の行動や価値観に新たな視点を得ることを目指します。誰もがいつか必ず死を迎えますが、その事実にしっかり向き合う機会は少なく、普段の生活ではつい意識から遠ざけてしまいがちです。けれども、仕事で締め切りが近づくと集中力が高まるように、人生にも期限を設けることで、自分が本当にやりたいことに気づいたり、後回しにしていたことに取り組むきっかけになるのではないかと考えています。仮想のタイムリミットを終えた60日後には、日常をこれまでとは違った視点で捉えられるようになるかもしれません。「生きているだけで丸儲け」という感覚が芽生え、より前向きに日々を楽しめるようになるのではないかと思っております。この考え方を共有することで、誰かの人生の選択肢を広げるきっかけになればと願っています。